忘れられない言葉 「レントゲン美人」(下)

前回書いた「レントゲン美人(上)」は、先天性股関節脱臼の手術により、レントゲン写真では左右の股関節の位置が揃ってきれいになっていたにも関わらず、今までなかった激痛が出てしまった方の話でした。

この話を聞いたとき、私はこのような不運なケースは非常に稀なのだろう、と思っていたのです。しかし・・・

理学療法士として病院に勤務し、整形疾患の方のリハビリに携わっていたときのことです。

脊柱管狭窄症、腰椎ヘルニア、頚椎症などの患者さんの中には「手術は成功した」と言われたものの、症状は変わらないとおっしゃる方が以外と多いことに気が付きました。

たとえば、頚椎症で手術した患者さんは、術前からの手のしびれがとれない上、頸部後面を切開し縫合しているため、そこがつっぱって、前より首の動きが悪くなったと、嘆いていらっしゃいました。

しかし、患者さんは手術の前に、手術のリスクや、手術をしても症状が変わらないことがある、ときには悪くなることもある・・・・などの説明を受けて、同意のサインをしています。

このため、症状が変わらなくても仕方ない、と諦めている方もいらっしゃいました。

どうして、手術をしても治らない人がいるのだろうか?

先輩や同僚にそのことを聞いても、あまり関心がない様子。

疑問をもったまま、仕事を続けていたのです。

腰部脊柱管狭窄症で手術をされた70代の男性のリハビリを担当したときのことです。

その方も手術は成功、と主治医に言われ、最初はとても喜んでいましたが、時間が経過しても以前からあった足のしびれがなくならなかったのです。

「なんで治らんのかな?手術はうまくいったのにな・・・」とリハビリの時間に、私によく聞いてこられました。

私も疑問に思っているのですから、答えらず、「整形回診で先生に直接聞いてみてはどうでしょうか」と言うしか仕方ありませんでした。

週1回、整形回診が行われていました。

医師、リハビリスタッフが、患者さんをベッドサイドに訪ね、経過を確認していきます。

私がこの整形回診を担当しているとき、先ほどの患者さんが主治医に質問しました。

「手術してもらったけど、前と同じや。足がしびれとる、先生、なんでなんですか?」と。

すると、整形外科の先生は「しびれ?そうですか・・・でもね」と、術前、術後のレントゲン写真をその方の前に差し出しました。

「あなたのレントゲン写真、見てください。ほら、こんなにきれいになってるでしょう。前と比べたらずいぶんきれいです。手術は成功してるんですよ。
足のしびれがあるなら、ここにいるリハビリの人たちになんとかしてもらいましょう」と先生は笑顔で答え、あっさり回診は終わりました。

私は、「えっ、リハビリにふるの?」とびっくりしたのと、「レントゲン写真、きれいになってる」それを繰り返す、先生の言葉から、学生時代に聞いた「レントゲン美人」の話が蘇ってきたのです。

「レントゲン美人」はこんなに身近にあり、稀なケースではなかったことを、このときひしひし感じたのです。

このような経過があり、「レントゲン美人」という言葉は、今も忘れられない言葉となっています。

整形疾患で手術が成功しても症状が治らないのはなぜか?

症状を改善するにはどうしたらいいのか?

その疑問はますます強くなりました。

その疑問を解決する糸口を探して、整体、カイロ、マッサージ、気功、温熱療法・・・・などの治療を行っている先生方を訪ねたり、各種のセミナーに参加し、徒手的な治療方法を学んでいきました。

現在、神戸で自費整体院を開院しています。

「レントゲン美人」という言葉を忘れないよう、本当に困っている方のお役に立てるよう、日々研鑽していくつもりです。